「SNSで採用できるのは、有名な大手企業だけでしょ」——そう思っている方に、この記事を読んでいただきたいです。
無名の会社こそSNS使わないと採用単価高騰で苦しくなるので、ぜひこの機会にSNSの活用のご検討をお願いします。
今回紹介する5社は、いずれも従業員数が数十人〜数百人規模の中小・中堅企業です。知名度があったわけでも、大きな予算を使ったわけでもない。それでも、SNSを始めてから応募が劇的に変わった。その具体的な数字と、成功した理由を丁寧に解説していきます。
数字の出ていない曖昧な事例紹介ではなく、「何を・どうやって・どんな成果が出たか」まで踏み込んで書きました。自社でのSNS採用を検討している方にとって、最も実務的な参考になる内容にしています。
成功事例から「何を学ぶべきか」
成功事例を読むとき、多くの人は「バズった動画の内容」に注目します。でも正直に言うと、それを真似しても意味がありません。バズったコンテンツは「その会社だったから機能した」という文脈の産物で、コンテンツだけを切り取って再現しようとしても、別の会社では全く刺さらないことがほとんどです。
注目すべきは「どんな課題を持っていた会社が」「何という判断をして」「どんな設計でSNSを動かしたか」というプロセスです。この視点で5事例を読むと、コンテンツの中身は全部違うのに、成功の構造は驚くほど似ていることが分かります。
事例① 大京警備保障株式会社|警備業

会社概要: 東京都新宿区に本社を置く警備会社。交通誘導・巡回警備が主力事業。社員の平均年齢は50代。
課題: 警備業は「きつい・怖そう」というイメージが強く、特に若手の採用が慢性的に難しい業界。求人広告には月130万円以上を投じていたが、若年層からの応募が集まらなかった。
やったこと: 2020年3月にTikTokアカウントを開設。社長・教育長・社員が出演し、業務とは直接関係のない「バズりトレンドに乗った動画」を毎日1本投稿し続けた。冷えピタを使ったドッキリ企画、棺桶ダンスのパロディなど、50代の中高年社員が全力でふざける動画が次々と拡散。「採用してください」「新卒応募できますか?」という問い合わせがTikTok経由で届くようになった。
数字で見る成果:
- アカウント開設から1年でフォロワー約10万人を突破
- TikTok開設後、問い合わせが100人以上、実際の応募が50人以上に
- TikTok開始前は「月1人採用できるかどうか」だったのが、一時期10人の採用に成功
- 現在のTikTokフォロワーは国内企業でポケモンに次ぐ約280万人(2023年)
- 求人広告費を大幅削減しながら応募が増加
中小企業が学べること: 大京警備保障の最も重要な気づきは「警備員になりたい人を集めようとするな」という逆転の発想です。採用の出発点を「警備員を探している求職者」ではなく、「良さそうな会社があれば転職を考えるかもしれない潜在層」に置いた。求人告知ではなく、会社そのもののファンを作ることを目的にした。これが結果的に「面白そうな会社と知って求人サイトで検索した」という間接的な応募増加にも繋がっています。
株式会社あいホーム|地方工務店

会社概要: 宮城県仙台市に本社を置く工務店。従業員数約70人の地方中小企業。
課題: コロナ禍(2020年)に就活イベントがすべて中止。学生との接点がゼロになり、例年通りの採用活動が完全に機能しなくなった。
やったこと: InstagramのライブとYouTubeを活用した採用活動を一から設計。就職活動の時期に合わせて毎日約15分のInstagramライブを30日間連続で実施。各回の視聴者数は50名前後。求人情報の一方的な発信ではなく、「就活の不安をリアルタイムで解消する場」として設計した。社長や社員が顔を出してライブに出演し、質疑応答に答え続けた。
数字で見る成果:
- オンライン会社説明会の参加者が100人に到達(従業員70人の地方企業として異例の数字)
- 参加100名のうち60〜70%がInstagram経由
- 内定承諾者6人は全員、Instagramライブの毎日視聴者
- 内定辞退者はゼロ、全員が期日通り入社
中小企業が学べること: あいホームが示したのは「SNSは採用媒体ではなく、内定辞退を防ぐツールでもある」ということです。内定辞退ゼロという結果は、30日間のライブを通じて学生との信頼関係がしっかり構築されていたからです。「毎日見ていた社長と社員を知っている状態で入社する」のと、「説明会に一度参加しただけで入社する」のでは、入社後のミスマッチリスクが全く違います。採用コンテンツを「入社後のギャップをなくすための情報開示」として設計したことが、最終的に離脱ゼロという成果に直結しました。
事例③ 三和交通株式会社|タクシー業

会社概要: 神奈川県横浜市に本社を置くタクシー・ハイヤー会社。神奈川・東京・埼玉に8営業所を持つ中堅企業。
課題: タクシー業界全体で運転手の高齢化が深刻な問題。東京都内の平均年齢は約59歳で、若年層の採用が業界全体の課題。求人を出しても若い応募者が来ない状態が続いていた。
やったこと: 取締役部長・課長代理をはじめとする中高年社員が「踊るおじさん」として全力でダンスに挑む動画をTikTokで投稿開始。「短いネクタイが特徴の部長がキレキレのダンスを真顔で踊る」という意外性がウケ、TikTok 2021年上半期トレンドにノミネート。タクシー業界に関係のない内容を投稿しながら、プロフィールには採用情報へのリンクを設置。求人媒体を検索して「TikTokで見た三和交通」にたどり着く間接的な流入も生んだ。
数字で見る成果:
- TikTokフォロワー数は21万人超(2023年)
- 新卒採用は以前の倍の40人を達成
- コロナ禍でも採用単価が大幅に低下
- 採用開始当初は3人しか入社しなかったが応募者数は大幅増加
- 求人媒体経由の応募者からも「TikTokを見て検索した」という声が増加
中小企業が学べること: 三和交通の成功で注目したいのは「採用系コンテンツを一切上げていない」という点です。採用情報はプロフィールリンクに任せて、投稿はひたすら「見る人が楽しい動画」だけを作り続けた。「採用のためのSNS」を作ろうとすると、どうしても求人情報や会社紹介に傾きやすい。でも視聴者が求めているのはエンタメです。求人告知をしない潔さが、逆に採用につながる認知拡大を実現しました。
事例④ 三陽工業株式会社|製造業

会社概要: 兵庫県明石市に本社を置く製造業・製造派遣業の企業。自社工場10カ所、営業拠点26カ所。設立から10年で年商を約10倍に成長させた中堅企業。
課題: 製造業は若手人材確保が業界全体の構造課題。Z世代への認知がほぼゼロで、新卒採用の母集団形成に課題を抱えていた。
やったこと: 2021年2月に「おじさんTikTok」アカウントを開設。人材戦略部の部長(56歳)の発案で、50代の監査役・監査室長と73歳の最年長社員の3人が出演。歌・ダンス・一発芸といった「仕事と全く関係ない動画」を毎日更新した。フォロワーが増えるにつれて中高年社員の真剣な姿に共感する若者が増え、「面白そうな会社」という印象が広まっていった。採用広報メンバーを募集する際にはTikTokで告知動画を投稿し、無料求人サイトへ誘導した。
数字で見る成果:
- 8カ月でフォロワー4万4千人、最大再生数310万回、累計再生数1,200万回以上
- 2022年新卒採用の説明会参加者のうち7割がTikTokを見た経験あり
- 新卒内定者8人のうち3人がTikTok経由で応募
- 面接者262名のうち約6割が「TikTokを見たことがある」と回答(2021年9月)
- 広報メンバー採用では外部コストゼロで2カ月に15名の応募、2名採用を実現
- 求人問い合わせ件数が1.25倍に増加
中小企業が学べること: 三陽工業が示した最も重要な教訓は「採用ページへの受け皿を整えることがセット」だということです。TikTokで認知を作っても、採用ページが整っていなければ応募には繋がらない。同社はホームページにビジョン・理念・社内環境改善の様子を丁寧に掲載し、「導線(TikTok)」と「受け皿(採用サイト)」を両方設計していました。SNSだけをいくら頑張っても、飛んだ先が整っていなければ機会損失が起きます。
事例⑤ 株式会社リンクロノヴァ|建設業

会社概要: 宮城県仙台市に本社を置く建設会社。2020年3月創業の比較的新しい企業。
課題: 建設業は「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージが強く、特に若年層からの応募が集まりにくい業界。創業間もない会社という認知度のなさも課題だった。
やったこと: 「ながの社長」が主役となり、TikTokで会社のデスクや社内で料理を作る動画を投稿し続けた。「建設会社の社長がランチを社内で料理する」という意外性のあるギャップコンテンツが若い視聴者の心を掴んだ。YouTubeも並行して運用し、複数のSNSで情報発信を展開。求人募集の投稿をした際には「まだ募集していますか?」という質問が多数寄せられた。
数字で見る成果:
- TikTokフォロワーは1万人以上を獲得
- 採用応募数が前年比で300%増
- 新卒採用が倍増、中途採用応募者も200%増
- 採用コストが半減
- 建設業界全体から注目される事例として紹介されるようになった
中小企業が学べること: リンクロノヴァが体現したのは「ギャップ戦略」です。「建設会社の社長が料理する」という意外性は、単に面白いからバズったのではありません。「この会社の社長は気さくで、社内の雰囲気も良さそう」という情報を、直接言葉にせずに動画で伝えることができた。業界イメージとのギャップが大きい会社ほど、この「ギャップ戦略」はSNSで効果を発揮します。建設・製造・警備・物流といった「3K系」と言われてきた業界の中小企業にこそ、最も再現性の高い手法です。
5社に共通していた「3つのパターン」
5事例を並べて見ると、コンテンツの中身はバラバラなのに、成功した構造には共通点があります。
共通点①:「採用コンテンツ」を作っていない
5社とも、投稿の主軸は「求人情報」でも「会社紹介」でもありませんでした。大京警備保障は冷えピタドッキリ、三和交通はダンス動画、三陽工業はおじさんの一発芸、リンクロノヴァは料理動画——いずれも採用とは直接関係のないコンテンツです。あいホームのInstagramライブだけは採用に特化していましたが、それでも「求人告知」ではなく「就活生の不安解消の場」という設計でした。
採用のためのSNSなのに、採用を前面に出さない。この逆説が共通しています。
共通点②:「業界イメージのギャップ」を武器にしている
5社の業種を並べると、警備業・工務店・タクシー・製造業・建設業です。これらはすべて、従来「若者に人気がない」業界です。SNS採用で最も効果が出やすいのは、実は業界イメージが低い企業です。理由は単純で、「想像と違う」と感じさせる余地が大きいからです。業界イメージが低い会社が「実は楽しそうな職場」を発信すると、そのギャップが強いフックになります。
「うちの会社は地味だから…」と感じている中小企業こそ、SNS採用の適性が高い可能性があります。
共通点③:「継続」を仕組みで担保している
5社のどこも「すぐに結果が出た」わけではありません。大京警備保障は毎日1本投稿を続け、三陽工業は8カ月間毎日更新しました。あいホームは30日間連続ライブをやり切りました。共通しているのは「継続できる体制を最初から作った」という点です。1人に依存せず、社員を巻き込み、投稿を日常業務の一部に組み込む仕組みを作っていました。
中小企業でSNS採用が失敗するときの最大の理由は「3ヶ月で止まる」ことです。継続できる体制設計が、成功の最も重要な前提条件です。
まとめ:中小企業がSNS採用で応募を増やすためにやること
今回紹介した5事例から見えてくるのは、「SNS採用は特別な才能やバジェットがなくても機能する」という現実です。
大京警備保障はおじさんが踊っただけ。三陽工業は中高年社員が一発芸をやっただけ。リンクロノヴァは社長が社内で料理をしただけ。いずれも高価な撮影機材も、プロのディレクターも不要でした。スマートフォン1台と、「恥ずかしがらずにやり続ける勇気」と、「採用ページへの適切な導線」があれば、中小企業でも確実に応募は動きます。
今すぐ始めるために必要なのは、次の3点だけです。
ターゲットを1つに絞ること(新卒か中途か、何歳代か)。SNSを1媒体に集中すること。採用ページへの導線を整えること。この3つを先に設計してから投稿を始めると、今回紹介した事例の再現性が大幅に上がります。





















相川智洋 – Saitan代表取締役
2023年4月にSaitanに参画し、 2025年1月に同社の代表取締役に就任。累計2000本以上のショート動画制作のディレクションを手掛ける。SaitanのYouTube公式アカウントではTikTok運用のノウハウを発信中。